リレーエッセー 第10弾

若者を育てるボランティア

東海支部 藤澤幸子 (学24EA)

今年も2月初め、思い出をいっぱい抱えて、留学生たちが帰っていった。 タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ラオス、ドイツ、スイス、ノルウェー、デンマーク、ハンガリー、フランス、アメリカ、チリ、ブラジル・・・・世界中から日本全国に散らばって、一年間高校に通った200人以上のAFSの留学生たちである。
高校生交換留学の財団法人AFSに関わり始めて、かれこれ10年になろうか。AFSの名前は自分が高校時代からアメリカンフィールドサービスとして聞いたことはあったが、残念なことに、自分はそれほど意識の高い高校生ではなく、また自分に自信もチャンレンジ精神もなく、通り過ぎていた。
変化のきっかけは、自分の子どもであった。
3人の子どもに恵まれ、自分自身がどういう子どもを育てたいかということに向き合ったとき、目先の利益や点数にとらわれず、広い視野で物事をみることができる人間、自分の意見が自分の言葉で言える人間、の二つが大事だと考えた。
それは、自分自身の若いころの不甲斐なさの反省、後悔からきていることだった。
親として自分は何ができるか?と考えたとき、外大卒なんだし(ほとんど忘れていた…)外国人との交流を通じてそんな刺激があたえられるかもしれないと思い、一番下の娘がまだオムツをしている頃から、ホームステイを受け入れたり、地域の子どもたちもまきこんで、子ども国際交流サークルなるものを勝手に作り、留学生を呼んで毎月のように色々な国の話を子どもたちと一緒に聞いた。それは、自分自身にとっても楽しく、刺激的なことだった。

長男が高校生になり、留学すると言った時、しめしめ、私の思惑通り!と内心ニヤリとしたものだ。彼はアメリカのネバダ州、2歳下の長女はタイ、それから9歳下の次女も昨年イタリアに、それぞれ一年間AFSでお世話になった。
AFSの年間留学プログラムは、敷かれたレールを走るのではなく、自分でレールを作る、ある意味厳しいプログラムである。 もちろん、学校に通うわけだから、やることは決まっているが、短期留学でありがちな、今日は朝からここを訪問して、こういう体験をして・・・のようにレールが敷かれているものではない。留学生は、ホストファミリーも含めて、自分のおかれた環境をありのままに受け入れて、人間関係を作り、やりたいこと、できることを見つけて、自分で道を切り開くしかない。サバイバルだ。だからこそ、いろいろな気づきがあり、成長がある。
息子を受け入れてくれたのは、お母さんが韓国人のファミリー。 彼の作文の中には「実に多くのことに”気づいた”1年だった。」とある。 ホストマザーを通して見る、アメリカに住む韓国人の文化は、日本人である彼に、世界の中で生きていくのはこういうことかもしれないと考えさせた。
タイに行った長女は、最後の2ヶ月でホストファミリーを変わった。そのままでもあと2ヶ月を無難に過ごすことはできたが、彼女自身考えぬいたあげく、より留学生活を実り多いものにするために・・と決断し、友達の家庭に直談判して(もちろんタイ語で)家庭を変わった。

イタリアに行った次女は、帰国後自分の高校でのスピーチで、下級生にこう話した。 「みなさんは今までに自分自身の存在意義を確かめたことはありますか?・・・私がこの留学を経験して一番思ったこと、周りに伝えたいことは、自分の存在がここにはあると思える場所がある、そういう今ある当たり前のことがとても幸せだということです。またそれを知るためには一度自分と向き合い、言葉にして表現することが大切だということ。簡単なようで実は難しいことだと思います。両方とも日本にいてわかっているつもりでも実際にそういう状況になってみて心の底から思うようになりました。みなさんも今周りにあるものや人をもう一度見つめなおしてみてください。」家族、日本の友達、それに同じとき同じ場所で同じような悩みを共有しあったいろいろな国の友達をかけがえのないものと言う彼女は、自分の存在について深く考え、当たり前の幸せに気づいた。
身近な例としてわが子のことを書いてきたが、世界からやってくる高校生たちも、まったく同じなのだ。
感想文集“Walkie Talkie”(私が編集に携わっている愛知・三重・静岡に来た留学生たちの文集)の留学生たちの文章は、わが子たちと同じように苦しみ、悩み、成長した様子が愛おしい。
あるドイツ人の女の子の文。原文は手書きの美しい日本語だ。「留学をしても変わるのは当たり前のことじゃないよ。 自分が変わりたくなかったら変わらない。 人間は変化を怖がっているかもしれない。 今までこのままで安全だったから変わらなくてもいいだろう。でもBを知らずにAは本当に一番いいのを知っているはずはないだろう。 だから私は一生懸命に変化を戦った。日本に来る前に目標のなかった私にとって、頭の中に目標が生まれた。 そして、心の中に力が生まれた。 そしていつかその力で私の夢をかなえられる。」
私が今実際にしているボランティア活動は、世界のいろいろなところからくる留学生の受入に関する様々なことである。 自分の子どもたちが育ててもらったように、日本でよその国から来た子達を育てたいと思うのである。 グローバルな子育てなんて、スケールが大きくてキモチいいではないか!

学校を探し、ホストファミリーを探し、オリエンテーションをし、交流イベントをし、留学生やホストファミリーの悩みを聞き、そして、2月の初めに一回り大きくなった若者たちを送り出す。 たいへんなこともたくさんあるが、どんな子と出会えるのか楽しみでもある。

もちろん1人ではない。 受け入れてくださる高校の先生方、地域の方々、ホストファミリーの皆さん、若者たちを育てることで世界が平和になることを願う財団のスタッフやボランティアの人々とともにである。 この楽しさを分かち合える仲間がもっと増えるといい、と切に願う。
https://www.afs.or.jp/jpn_ja/homeをぜひのぞいてみて欲しい。

実は私のしているボランティアはAFSだけではない。 住んでいる市の国際交流協会で運営委員として15年、姉妹都市交流のお手伝いや在住の方々との交流もしてきた。 協会の仲間と市内在住外国人向けの情報紙をもう11年ほど、英語、ポルトガル語、スペイン語、中国語、日本語ふりがな版で作っている。 日本に住み働いている人たちと、隣人として仲良くしていくということが大切だと思うからだ。 その活動で知り合った青年たちの、厳しい状況のなかでも前向きで真面目に取り組んでいる姿から教えられることも多い。

外大時代には、フォークソング同好会で歌ってばかりのキリギリス生活をしていた私だが、人生という川は、おもしろいところへ私を導いてくれるもので、自宅で開いている音楽教室や英語教室で子どもたちに関わる仕事を、自分のできる範囲で30年以上続けてきた。

仕事で、AFSで、国際交流協会で、若い人たちと関わり、若い人たちを支え、若い人たちの背中を押して励ましていくことが私の与えられた使命かもしれないと思う、今日このごろである。

被爆アオギリ2世の成長

2024年6月5日

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