熊と八のテニス大会始末記
塚野 和男(学10EB)
(トン、トン、トン、トン)と太鼓の出囃子。
えー毎度ばかばかしいお話でご機嫌をお伺い申し上げます。
本日は、「熊と八のテニス大会始末記」というお話で皆様のお耳を汚そうということで、最後までお付き合いをお願い申し上げます。
ご隠居 | おや、熊さんかい。ちょうどいいところへ来たね。まあ、お茶でもどうだい。 |
熊 | こんちは、ご隠居さん。のっけからお茶を出してくれるというのは、きょうはどういう風の吹き回しだい。おまけに茶菓子もついているじゃねーか。 |
ご隠居 | いや、なに、席亭からね、熊さんの近況を聞いてほしいということでね、お前さんに来てもらおうと思っていたところだよ。 |
熊 | じゃあ、「飛んで火に入る夏の虫」というのは、このことだな。 |
ご隠居 | そういうことになるか。まー、いいじゃないか。ところで、お前さんの近況はどうなんだい。 |
熊 | 蚊取り線香なら、もう、涼しくなって、とっくに仕舞っちまったよ。 |
ご隠居 | 「金チョー」じゃないよ、近況だよ。 |
熊 | それなら、うちの水槽の中で泳いでいらあーな。 |
ご隠居 | 「金魚」じゃなくて、キンキョー。お前さんの近頃の出来事を聞かせてほしいということだ。 |
熊 | なんだい、そういうことかい。それなら、こないだ、電車の中で100円玉をおっことして、拾おうと思ってしゃがんだら、おもわず一発落としてしまったんだが、これが、俺の近頃の出来事だ。 |
ご隠居 | 汚いねー、周りのお客さんに迷惑をかけたらだめじゃないかい。いいえね、お前さんの、近頃の珍しい話でもいいから聞かせてもらったらいいんだよ。 |
熊 | 珍しいといえば、去年9月に、神戸市テニス大会にはじめて出てしまってね。75歳以上のダブルスにエントリーしたと思いねー。 ダブルスだから相棒がいるんだが、これが79歳と俺より年上で、八という名前なんだ。 神戸ローンテニスクラブのスクールで練習していたところ、俺の右の強打にほれ込んだみたいで、ペアを組んでほしいといわれてね、まあー、年上から頼まれたらいやといえねーのが俺の性分だ。 |
ご隠居 | そんなところで威張るんじゃないよ。そうするてーと、お前さんが76歳だったから、79歳の相棒だと最高のオールデストコンビだね。 |
熊 | そうなんだ。75歳以上のクラスは、俺たちだけの申し込みで、試合になんねーということで70歳のクラスに入れられてね、ここには2組がいて、何とか総当たりの試合ができたんだよ。 |
ご隠居 | ほう、そうかい。それで、試合の結果はどうだったんだい。 |
熊 | それがね、八は、緑内障で右ひざにサポーター巻。俺は、昔、スキーで骨折して右足が2センチ短いと来てるから、まるで、びっことめくらのコンビみたい。おまけに初めてのペアということで、動きが悪くてセンターを抜かれっぱなし。どちらの試合も。3−8、3−8と、まあ、ダンゴでなくて良かったという程度だったなあ。 |
ご隠居 | まあ、年下の相手にその内容じゃ、いいほうじゃないか。 |
熊 | そうなんだけれど、俺が気に入らないのは、最高齢のペアを、15分の休憩はあったけれど連続して試合をさせたことだ。もう少し敬意を払って1試合目と3試合目に、時間をおいてくれればいいのにと思ったよ。俺たちがいなければ、70歳以上の試合は成立しなかったんだからな。 |
ご隠居 | ここで怒っても仕方がないじゃないか。ま、熊にとっては初めての経験で、よかったよかった。 |
熊 | 試合を見ててくれていたコーチの人も、ところどころ、いいボレーが決まっていたよといってくれた。ただ、急ごしらえのペアで息が合っていなく、俺の得意の右の強打が出なかったのは残念だった。 |
ご隠居 | そうかい。それじゃあいいところも少し出て、試合に出た甲斐もあったというもんだ。ところで、そろそろ、この話も落ちにしようじゃないか。 |
熊 | いやー、試合の途中にね、俺が打ったボールがコートのそばの樹に乗っかって落ちてこなかった一幕もあったんで、そんなところから、この話には落ちがない。 |
お後がよろしいようで。(てんてけ、てん、てん、てんてけ、てん)
*20年来続けている私のテニス生活の一端を、「落語」仕立てでご紹介しました。
なお、文中に差別用語がありますが、落語ということでお許しください。