リレーエッセー 第87弾

それは校庭から始まった

塚野 和男(学10EB)


読書と映画鑑賞は、子供の時からの私の楽しみである。

本を読んだ始まりが、幼稚園時代の「キンダーブック」だと記憶しているが、 そのころ、親に連れられて映画を観た覚えがほとんどないところをみると、 同じ子供の時からの趣味でも、映画のスタートは少し遅かったのかもしれない。

その分、七十路の後半に入った今では、視力が落ち、 根気がなくなって長続きがしない読書に比べて、 映画鑑賞は、料金がシルバー年代の割引になったころから どんどんペースが上がってきている。 毎月、少ない時でも3〜4本、多い時では5、6本を観ているから、 年間では5、60本にはなる勘定である。

そのほとんどが外国映画だが、 別に外大出身だからというわけではなく (もっとも英語力はとっくの昔に錆びついてはいるが)、 アイドルを主演にすることが多い近頃の日本映画には、 あまりリアリティが感じられないだけのことである。

最近観た映画では、宇宙飛行中の遭難をテーマに 今年のアカデミー賞候補にもなった「ゼロ グラビティ」が面白かった。 サンドラ・ブロック扮する女性宇宙飛行士が、宇宙遊泳中の事故を乗り越えて 無事、地球に生還する物語だが、ほとんどの場面は彼女1人(声の出演には、ジョージ・クルーニーがあったが)で、 スリル満点のストーリーとともに、どのように撮影したのか、その方法が興味深い映画だった。

宇宙飛行をテーマにした素晴らしい映画に、「2001年宇宙の旅」があったが、個人的にはそれに匹敵する出来栄えではないかと思っている。


子供のころから高校までを大阪の堺で過ごし、大学時代は大阪の難波、梅田という繁華街を経由して六甲の学舎に通っていたから、 時代に合わせてそれぞれの土地、土地の映画館で映画を楽しんだ。

映画を観たという最初の記憶は、おぼろげながら小学校低学年のころ、 エノケン主演の「三尺三五平(さんじゃく さごべい)」という時代劇だったと思う。 エノケン扮する小柄な侍が、刀のこじりに車を付けてころがして闊歩するのが面白かったとかすかに覚えている。

でも、本当に映画を見たという印象は、戦後間もなく各地の学校などで巡回映写した映画だった。 夏の夕方、校庭に大きな白布のスクリーンが建てられ、うちわ片手の人々が三々五々集まり、やがて日が落ちると映写がはじまる。 上映される映画は、当時の人気映画「母物」で、三益愛子と三条美紀の母娘が観客の紅涙を絞っていた。 もっとも、子供の私などは映画もさることながら、仲間の悪童とともに校庭を走りまわったり、 夏の夕方の涼しい風に揺られるスクリーンを裏側からみて囃し立てたりしていたのだが。

映画にのめりこんだのは、アルバイトで小遣いが多くなった高校時代(堺市立商業高校)で、このころは堺の中心部にあった「宿院劇場」をもっぱら利用した。 洋画の2本立て上映の映画館で、当時、大流行の米西部劇、「駅馬車」「荒野の決闘」「黄色いリボン」など、ジョン・フォード監督作品などを楽しんだ。

また、時には難波まで遠征し、乏しい小遣いから封切館の「スバル座」や「松竹座」を敬遠し、もっぱら洋画2本立て専門の「オリオン座」、「なんばセントラル」通いもした。

ちょうどこのころ、大阪の文楽劇場(当時は、大阪四ツ橋近辺にあった)では太夫などの不足もあってか人形劇が上演できず、 主に輸入フランス映画(戦前、戦後作品)を上映していた。 それまでの活劇中心から芸術的な香りがする映画を見たいという背伸びからか、よく通ったものだ。

この中には、今でも当時の感銘が残っている「大いなる幻影」、「望郷」、「舞踏会の手帳」、「田園交響楽」、「肉体の悪魔」などのフランス映画がある。


大学時代には、梅田から阪急電車で、西宮北口乗換えで六甲まで通うのだが、そのまま特急で三宮まで直行し、映画を見て帰るという日々も多かった。 そのせいで5年間の在学を余儀なくされたのだが、映画を通して外国の歴史、文化、社会情勢などを学ぶことができたと思っている。

このころ通ったのが、いずれも三宮近辺の2本立て専門映画館、「大洋劇場」、「阪急文化」、「スカイシネマ」、「ビック映劇」などで、 やはり手持ち金のとぼしさから封切館敬遠の映画鑑賞であった。

最近の神戸の映画館状況は、他都市と同様、大型スクリーンによるシネコンが全盛で、3Dによるアクション映画が幅を利かせている。 それはそれで、座席もゆったりし、角度もついて格段に見やすい映画館が増えたのはいいのだが、一人ひそかに、 スクリーンから様々な人生を拾い上げることのできる映画を上映する映画館が少なくなってしまった。

その意味では、このところ愛用?の映画館は、朝日会館地下の「シネリーブル」、元町本通りの「元町映画館」くらいのものか。 こうした単館封切りの映画館が少なくなり、神戸では上映しない映画もあって、場合によっては西宮、大阪まで遠征しないとみられない映画も多くなってきたのは、残念なことである。

最後に、これまで観た映画の中で私的ベストワンは、外国映画では、仏のマルセルカルネ監督作品「天井桟敷の人々」、日本映画では、黒沢明監督の「七人の侍」であることを付記する。 

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2024年6月5日

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