リレーエッセー 第91弾

「おんがく」

山下 道人(学10EA)


11月3日、私が属している合唱団の定期演奏会で、「おんがく」という題の曲を演奏した。 今春亡くなった まど・みちお の詩だ。


かみさまだったら みえるのかしら
みみをふさいで おんがくを ながめていたい
目もつぶって 花のかおりへのように
おんがくに かお よせていたい
口にふくんで まっていたい
シャーベットのように広がってくるのを
そして ほほずりしていたい
そのむねに だかれて

数限りない日本語の中で、「音楽」という言葉ほどその意味が幅広く、簡単には言い表せない言葉は無いのではないだろうか。

ある国語辞典には「音の強弱、長短、高低、音色などを組み合わせて、人間の感情などを表現する芸術。 器楽と声楽がある」とあるが、やや漠然として言い尽くせていない。

その種類の多さは、何世紀も遡るバロック、ルネサンスからバッハ、モーツァルト、ベートーベン、チャイコフスキーなどの所謂クラシック音楽、世界各地の古謡、民謡、童謡、オペラにミュージカル、歌曲、日本の歌謡曲、叙情歌、雅楽、ジャズ、シャンソン、タンゴ、、、と系統立てた分類は難しくて挙げればいとまがない。


私のこれまでの人生に最も楽しみ、活力そして潤いを与えてくれたのは間違いなくこの音楽である。

音楽の楽しみ方も人それぞれで、あるジャンルのみに集中して他へはあまり興味を示さない人も数多い。 また聴くことに満足し、自らは歌ったり、楽器を手にしたりはしない人も多い。

私の場合はとにかく幅広く聴き、そして歌うことが日々を潤してくれる。


3歳の時に父がレコードをかける蓄音器を買ってきたのが始まりで、明けても暮れても昭和の流行歌や童謡、軍歌などを聴きながら育った。 終戦後はラジオに釘づけとなって、ラジオ歌謡や流行歌を自然に憶え、歌っていた。

疎開先の小さな村で高校生までを過ごしたので、ピアノを習うような環境ではなく、唯一、ハーモニカをよくふいていた。 小、中学校では、音楽の時間が待ちどおしかった。


神戸外大へ入学してからは、当時盛んだった歌声喫茶やクラシック喫茶、ジャズ喫茶へよく通い、洋画を見まくって、大都会の文化に接することが出来て、頭の中は一気に音楽が溢れかえった。

そして誘われるままに誕生したばかりのグリークラブへ入部した。 高校まで合唱の経験は勿論、楽譜に接したことも皆無に近かったため、躊躇しながら、おそるおそるの入部であった。 しかし男声合唱の魅力にとりつかれて学生生活の大きな部分を占めるようになり、4年生になって第1回の外大単独コンサートで締めくくることが出来た。


喜寿を迎えた今も、幸いなことに健康でとくに不思議なくらいに"声帯年齢"はまだまだ若いと自負して歌を友達にしている。

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2024年6月5日

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