リレーエッセー 第39弾

竹林のある暮らし

米光 正昭(学15EA)

神戸電鉄の有馬温泉駅から10分ほど急な坂道を登ったところにある山荘で、わたしたち夫婦は庭の管理人をしています。 広さ2万坪の山内に椿(1,500種、3,000本)、桜(沖縄河津、緋寒、八重桜など)、そしてもみじ(イロハ、イタヤカエデ、トウカエデなど)が全国から集められ植栽されています。 湿度が高いという有馬の気候を活かし、茶室まわりの庭に美しい苔が生育しています。 敷地は竹林で囲まれ、風が吹くとうす緑の葉がさやさやと歌いだします。 春にはタケノコがあちこちににょきっと顔を出し始めます。 マダケ、モウソウ、ハチクとタケノコシーズンが7月まで続き、わが家のごちそうとなっています。 と同時に通路などに出てくるタケノコはオジャマムシで、その切除に追われます。 竹は成長が早く放置すると密林になりますので、スタッフ8人が総出で伐採し竹垣、土止めや支柱などに使用します。 豊富な竹材を利用してわたしたちは「竹炭」を焼いてみようと思いつきました。

炭を焼いた経験が有りませんので、「やさしい竹炭の焼き方」という本を図書館で借りて研究を始めました。 手引書のアドバイスに従って空き缶でテスト釜を作り炭焼きのノウハウを身につけることにしました。 1斗缶の底に穴を開け、コーヒ缶と太い竹で作った煙突を取りつけます。 缶の口側に焚き口を開けたら手作りの「炭焼き釜」の完成です。 肉の厚い竹を20センチ長に切り、半割にして1〜2ヶ月間乾燥させて炭材を用意します。 薪は山内で集めた枯枝を使用します。 竹垣に囲まれたバーベキューヤードに運んだ炭焼き釜の内面に新聞紙を貼り付けます。 炭材を30本ほどていねいに詰め、その上に薪をきっちりと載せます。 釜の焚き口にも薪と杉の枯葉と新聞紙をセットします。 炭材と薪を詰めた釜はずっしりと重くなります。 煙突を取り付け、焚き口を残して釜に土をすっぽりとかけたら着火です。 火をつけた新聞紙を焚き口に突っ込むとぱっと杉の葉が炎を上げます。 うちわであおいで釜内の薪へと燃え移って行くように風を送ります。 竹煙突から白煙が出始めたので「よっしゃ、燃え移ったぞ」とあおぐ手を休めると煙が出なくなります。 懸命にうちわ作業を続けると白煙が安定してもくもくと出るようになります。 火炎が炭材に燃え移ったようです。 煙突から出る煙の色と量で釜の内部で起こっていることを推測します。 勢いよく出ていた白煙の量がだんだんと少なくなり、色も薄くなってきます。 着火から約1時間で煙の色が青みを帯びてきますので焚き口を閉じます。 さらに5分ほどしたら煙突の出口を塞いで釜全体を土でしっかりと覆い、蒸し焼き工程に入ります。 半日蒸し焼きしたら釜を開けて竹炭をいよいよ取り出すのです。

覆っていた土を取り除いて煙突をはずします。 ワクワク、ドキドキの瞬間を迎えます。 釜を持ち上げた時の重さで出来具合がほぼわかります。 重いと感じた時は失敗です。 炭材が未燃のまま残っています。 軽すぎても駄目です。 燃えすぎて炭材が灰になってしまったのです。 プロが焼いた竹炭のように固くて形が整った炭が焼けるようになるには、さらに試行と工夫が必要です。 炭材の選定、釜への詰め方、燃焼と蒸し焼きのタイミングなど課題が山積しています。 竹炭は悪臭の防止、湿度の吸収、水の浄化など不思議な力を発揮します。 テスト焼きした竹炭を多くの友人にプレゼントしました。 皆さんが、冷蔵庫に入れた(脱臭)、ごはんやコーヒーの水を浄化したなどいろいろと活用してくださっているのはうれしい限りです。 本格的な伏せ炉を造って竹炭焼きにトライできたらと思っています。

有馬には美しい竹林がたくさんあり、昔から竹かごなど竹細工が盛んです。 「有馬かご」と呼ばれ湯治客がみやげものとして持ち帰りました。 この山里で竹林のある暮らしを満喫しているわたしたちもたっぷりとある余暇時間に竹細工に挑戦しています。 一輪花ざし、郵便受、ひしゃく、置き台、ほうきなど自信作がどんどん出来上がっています。 中でも「ミニ門松」には正月祝いにやって来た娘たちは目を丸くして驚きました。 夏は涼しくて快適ですが、冬の冷えこみは厳しく雪がたびたび積もります。 一面の雪景色はうっとりするほど美しいのですが、除雪作業で身体の節々が痛くなってしまいます。 ふきのとうでふき味噌、八重桜のつぼみで桜風呂、木の芽をそえたタケノコ飯、山なすびのジャム、茶摘み、あけび・みょうが・すだちの収穫、干し柿作り、きのこ狩、栗ひろいなどたっぷりと山の幸を楽しんでいます。 自然の恵みに感謝し、環境に溶けこんだ暮らしを夫婦二人でこれからも楽しみたいと思う今日この頃です。

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2024年6月5日

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