英語をめぐる雑感
木下 聰(学10EB)
大人になったら海外に飛躍したいと小学生の頃から夢を抱いていたが、進駐軍の通訳をしていたというハイカラで当時の田舎中学にしては英語の上手な英語教師に恵まれた。 その夢を実現すべく英米学科に入学、1961年に卒業、住友電気工業(株)に就職した。 輸出関係業務に2年余り従事した後ニューヨーク駐在も経験し、外国企業との技術提携や合弁事業の契約交渉など専ら英語を使う仕事に約40年間たずさわった。
現役時代には会社の海外出張のみならず、日本ライセンス協会の理事・デリゲートの一員として国際大会に参加し、欧米のビジネスマンや弁理士・弁護士と交流する機会を度々得た。 定年後は外国特許申請用の明細書の翻訳の仕事をして外大卒のキャリアを生かし続けている。
特許明細書は特許権利の範囲を明確にするためのものであるから、発明の内容を技術的に正確に敷衍し、記述する必要がある。 その英訳には文法的にも内容的にも細心の注意を払う。 定年直後に胃癌の全摘手術をし、義父の勧めで療養中のなぐさみにホトトギス派の「花鳥」に投句し始めた。 伝統俳句は5・7・5の17文字に凝縮して森羅万象・人事を花鳥諷詠として表現する世界で最も短い詩である。 詩的な語句の適切さが必要なので、一字も疎かにできない点では特許と同じだが、俳句は全てを言い切らずにその解釈は読む人の想像に委ねるという詩的広がり(不明確さ)を良しとする点では特許と全く異なる。
昨年には萩市で開催された花鳥全国大会(坊城中子主宰:約150名参加)で拙句が特選の一つに選ばれる幸運があり、また、東京で開催された国際俳句交流協会創立20周年記念シンポジウム(会長:有馬朗人)のパーティに出席して、アメリカ、イギリス、ドイツ、クロアチアなどの俳句愛好者と歓談する機会を得た。 俳句の心が漸く分かってきたような気がするが、日本の伝統文化・日本語あっての俳句を英語で表現する気にはまだ至らない。
特許明細書は、それを読む者が発明者の意図した権利範囲を確定できる論理的明確さが必要である。 したがって、特許明細書の英語にはスクールグラマーなどの英語文法と異なる特殊性があるが、10年間も翻訳の仕事を続けているとインターネットのお蔭で米国企業などネイティブの特許明細書も簡単に読んで参考に出来るので、特許英語の真髄が自ずから分かってくる。 翻訳ソフトの英訳は使い物にならないが、厄介なタイピング作業からは解放してくれ、パソコンのお蔭で翻訳の仕事も楽しく出来る。
このように、特許翻訳モードと俳句モードとに頭を切り替えて、仕事と趣味と両極端にある言葉の世界の面白さを楽しんでいる。
国際俳句交流協会参加結社の主宰の方々
胃の手術後2年ほどで体力が回復したのでゴルフの趣味も再開した。 外大卒の仲間とゴルフをすると、プレー後は英語談義になることがある。 「電車のドアの傍に“Press the button when light is on to open and close the door.”と書いてあったがこの英語は可笑しい。」とI君が言えばそれについて議論をし、 「ある観光地で『頭上に注意』を"Watch your head.”』と書いてあったが、自分の頭は見ることが出来ないからこの英語は可笑しい。」とU君が言えばそれについて暫く議論するという具合である。 英語教育について議論が白熱することもあり、「さすが外大卒だな」とその都度感慨を新たにする。 小生もパソコンなどのマニュアルや観光地の案内表示が分かりにくいと、つい独り言で文句を言う癖があって、家内から「職業病だね」とよく冷やかされる。
関西(三田市)に引越してからしばらく「芦屋ホトトギス」の句会(稲畑汀子主宰)に出席していたが、130人前後も参加するので拙句が採られることは少なく(特選に選ばれたこともあるが)、 また日程の都合もあり参加を止め、現在は「神戸同人俳句会」(西宮で毎月開催、常連は約10人、互選)に参加し、句会後は男性はお酒、女性はコーヒーなどを飲みながら好き勝手な俳句談義などを楽しんでいる。 参加メンバーを増やしたいと思っているので俳句に興味のある方(経験・男女不問)はご連絡下さい。
特許翻訳の方は、元気な間に後継者を育成しておきたいと思っている。
特許翻訳に関心のある方、特許翻訳が出来そうな方(自薦・他薦、男女不問)をご存知の方はご連絡頂ければ幸甚です。
いずれについても、お気軽にお問い合わせ下さい。
筆者(萩にて)